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コラム

ファミリーガバナンス

ファミリービジネスにおける「ファミリーオフィス」の活用状況

 特定のファミリーが企業経営に一定の影響を及ぼしている企業は、一般的に同族企業またはファミリービジネス (以下、「ファミリービジネス」という )と呼ばれています。欧米では、ファミリービジネスの株式を保有するファミリーメンバー (以下、「ファミリー株主」という )が、ファミリー内におけるファミリービジネスの事業経営、資本政策およびファミリーの資産にかかる管理・運用等に関する考えをファミリー内のルールとして策定・遵守することで、ファミリービジネスとファミリー双方の永続につなげる取組みが行われています。こうして策定されたファミリー内のルールは、「ファミリーガバナンス」と呼ばれています。

 欧米のファミリービジネスを営むファミリーにおいては、19世紀以降、ファミリーガバナンス を意識してファミリーが保有するファミリービジネス株式 (以下、「ファミリービジネス株式」という ) を集約のうえファミリー資産を管理・運用することにより、ファミリービジネス株式が分散するのを防ぎ、議決権の統一行使を実現、 相続承継等を円滑に実現する機能として「ファミリーオフィス」が活用されています。欧米では、ファミリーオフィスとは、富裕層ファミリーの資産を管理・運用・社会貢献・相続承継等ファミリーのガバナンス運営を支える機能を有する組織として活用されているのです。また、日本においても、江戸期・明治期のファミリービジネスである三井家等の商家において、ファミリーガバナンスを意識したファミリーオフィス類似の取組みが行われていたことが確認されています。

 米国におけるファミリーオフィスの活用については、 1882年にファミリービジネスで あった Standard Oilの創業家であるJohn Rockefeller氏が資産管理・ 運用するためにファミリーオフィスを設置したのを契機として、欧米のファミリービジネスを営むファミリーにおいて利用が広がったとされています。

 ファミリーオフィスは、プライベートな非上場の法人組織または個人の集合体であるため、公表されておらず正確には把握が困難ですが、 2021年にErnst & Youngがまとめた調査によれば、ファミリーオフィスは欧米を中心に1万社以上存在するとされています

 そして、ファミリーオフィス 1件あたりに保有資産は11億 6,000万ドル、2021年のファミリーオフィスの資産規模は世界で約5兆 9,000億ドルであり、ヘッジファンド(約3兆6,000億ドル)を上回る規模になっているとされています。ファミリーオフィスの活用状況Credit Suisseによる調査によれば、2020年における 100万ドル以上の資産を保有する世界の富裕層成人数は 56百万人で、その「保有資産」は 191.6兆米ドルという結果となっています。そして、2020年のUBSの調査によれば、「投資可能資産」 1億ドル以上を保有する欧米等の超富裕層においてファミリーオフィスが活用されているケースが多いことが確認されています。

 最近は欧米のみならずシンガポール他のアジアでもファミリーオフィスの活用が広がりをみせています。そして、ファミリービジネスを営むファミリー以外にも、元企業経営者、地主等の富裕層、投資家においてもファミリーオフィスが活用されるようになってきています

(出所)

Credit Suisse(2021)「Global wealth report 2021」, Credit Suisse HP, https://www.credit-suisse.com/about-us/en/reports-research/global-wealth-report.html(閲覧日: 2022年2月20日).

UBS(2020)「UBS Global Family Office Report 2020」, UBS HP, https://www.ubs.com/global/en/wealthmanagement/uhnw/global-family-office-report/(閲覧日:2022年2月20日).

Investment News (2021)「Wealthy families want more hedge funds: BlackRock(2021.1.6)」, Investment News HP,https://www.investmentnews.com/wealthy-families-want-more-hedge-funds-blackrock-200937 (閲覧日:2022年2月20日).

Ernst & Youngによる調査,日本経済新聞電子版(2021年)「アルケゴスなどファミリーオフィス超富裕層が自前運用」2021年4月3日.

Capgemini(2022)「WEALTH MANAGEMENT TOP TRENDS 2022」, Capgemini HP, https://www.capgemini.com/wp-content/uploads/2021/11/Top-Trends-in-Wealth-Management-2022.pdf (閲覧日: 2022年 2月 20日).

水谷公彦(2023)「ファミリーオフィスの海外における現状と日本での活用に関する一考察―アルケゴス事件 の影響を踏まえてー」日本貿易学会誌60,pp.21-38.

水谷公彦
コモンズジャパン株式会社 取締役
水谷公彦税理士事務所   代表税理士