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コラム
日本のファミリービジネスにおけるファミリーによる株式保有状況
倉科(2003)は、欧米の上場をしているファミリービジネスにおけるファミリーの株式保有比率は30~40%であり、ファミリーが過半数か少なくとも30%以上持つことが一般的であるのに対し、日本の上場をしているファミリービジネスにおけるファミリーの株式保有比率は低く、30%を持つことは稀であるとしています。また、末廣(2006)が各国の上場会社を対象とした調査によれば、ファミリービジネスの発行済株式総数の20%以上をファミリーが保有する割合は、フランスでは64.8%、ドイツでは64.6%であるのに対し、日本では9.7%に過ぎないとの結果となっています。
筆者は、日本の上場をしているファミリービジネスにおけるファミリーによる株式保有状況を把握すべく、2022年1月末時点の公開情報を活用してファミリーの株式保有比率等の調査を行いました。具体的には、公開情報に掲載されている「企業名」、「株主」(2022年1月末直近の本決算期末または第2四半期末における株主名簿上位10名)、「役員」(2022年1月末直近の会社法上の取締役および監査役)、「設立」情報を用いて上場会社の主要株主におけるファミリー株主数、ファミリーによる保有株式数を調査しました。そのうえで、ファミリーによる株式保有比率を、ファミリー株主による保有株式合計を分子とし、発行済株式総数(2022年1月末時点)を分母として算出し、ファミリービジネスの創立年月毎で比較しました。
この結果、日本の上場会社におけるファミリービジネスは2,063 社であり、調査時点における上場会社の53.2%でした。そして、上場をしているファミリービジネスの主要株主(上位株主10 位以内)におけるファミリー株主数の平均は1.7人、ファミリー(資産管理企業を含むファミリーオフィスまたは個人)の保有比率は18.0%でした(図表「日本の上場ファミリービジネスにおけるファミリーによる株保有状況」ご参照)。
日本の上場ファミリービジネスにおけるファミリーによる株式保有状況(2022年1月末現在)
| ファミリービジネス創立年月 | 企業数(社) | ファミリー株主数(平均,人) | ファミリーによる株式保有比率(平均,%) |
| 1945年7月以前 | 170 | 1.7 | 10.8 |
| 1945年8月~49年末 | 179 | 2.0 | 12.9 |
| 1950年代 | 201 | 2.1 | 13.8 |
| 1960年代 | 206 | 2.2 | 16.7 |
| 1970年代 | 241 | 2.2 | 17.2 |
| 1980年代 | 195 | 1.9 | 19.7 |
| 1990年代 | 269 | 1.4 | 19.6 |
| 2000年以降 | 602 | 1.3 | 22.4 |
| 計2,063 | 平均1.7 | 平均18.0 |
(出所) 筆者作成。ファミリー株主数・ファミリー株式保有率は、小数点第2位を四捨五入した。
ファミリービジネスの定義における、「個人株主として相応の株式数を保有している」点については、欧米におけるファミリーの株式保有比率発行済株主総数の30~40%であることを考慮すると、日本のファミリーによるファミリービジネス株保有比率は欧米のファミリーより低い水準にあるといえます。
今回の調査結果では、1945年7月以前のファミリービジネスにおけるファミリーによる株式保有率(平均)は、10.8%と、2000年1月以降の22.4%の約半分の水準であり、年数が経つ毎にファミリーによる株式保有率(平均)が減少していることが確認できました。特に1945年7月以前~1950年代設立のファミリービジネスにおける平均ファミリー株式保有率は、10.8~13.8%とそれ以降よりも一段と低いことから、当該時期に実施されたイベント・法制度等の影響があったものと考えられます。
日本では長寿企業が世界的に多い特徴があるといわれていますが、上場会社に限れば、1945年7月以前設立のファミリービジネスは、170社にとどまり、上場会社の4.4%(2022年1月現在)に過ぎない状況です。戦前からのファミリービジネスは、第二次世界大戦、それ以降のイベント・法制度等の影響もあり、一部の企業しか存続できなかったものと考えられます。よって、日本の長寿企業といわれるのは、法制度等の影響を受けなかった規模の小さいファミリービジネスが中心であると考えられます。
なお、ファミリー株主数(平均)は、興味深い変遷となっています。2000年1月以降設立のファミリービジネスにおける平均ファミリー株主数は、1.3人でしたが、1960 年代および1970年代設立のファミリービジネスでは2.2人まで増えています。30~50年のスパンで相続が発生することから、相続による株主数増加の可能性があると考えられます。一方で、1960年代および1970年代設立の2.2人を頂点として、1945年7月以前設立の平均ファミリー株主数1.7人へと減少に転じています。この原因についても更なる研究が必要であるが、ファミリーによる株式保有率(平均)が1970年代の17.2%から1945年7月以前の10.8%と減少していることから、ファミリーが相続による納税、経営からの離脱等を理由としてファミリービジネス株を手放している等の可能性があると考えられます。
このように、上場会社においては創立年により、ファミリー保有株率に差があり、1980年代を除き創立年から年数が経過する毎にファミリーによるファミリー株保有比率が減少する傾向があることが確認できました。また、創立年が第二次世界大戦前の企業とそれ以降の企業で大きな格差があることも確認できました。創立年から年数が経過する毎にファミリーによるファミリー株保有比率が減少していることは、税制・相続関連法制に加え、第二次世界大戦後の財閥解体、過度経済力集中排除法・独占禁止法等の影響があったものと考えられます。
(出所)
東洋経済(2022)『会社四季報 2022年2春』東洋経済新報社
倉科敏材(2003)『ファミリービジネスの経営学』東洋経済新報社, p.130-132.
末廣昭(2006)『ファミリービジネス論 後進工業化の担い手』名古屋大学出版
水谷公彦(2022)「日本の企業オーナーファミリーにおけるファミリービジネス株式保有に関する一考察」日本大学大学院総合社会情報研究科紀要 Vol. 23 No. 1, pp.25-36.

水谷公彦
コモンズジャパン株式会社 取締役
水谷公彦税理士事務所 代表税理士
